Q (裁判例)もらい事故で損害が否定された事案

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東京地方裁判所令和5年11月29日判決

事案としては、被告が運転する大型貨物自動車が路上で後退中、駐車中の普通自動二輪車に接触し、さらに二輪車が同車の後方で駐車中の原告が乗車する自家用中型貨物自動車に接触したというものである。大型貨物自動車→後退→バイクに接触→原告の車に衝突、というものである。

被告は、最初に後退した大型貨物自動車である。

原告は頸椎捻挫、背部挫傷の傷害を負ったとして通院をした。

被告車の自賠責保険会社及び損害保険料率算出機構は、A外科の治療について本件事故との相当因果関係が認められないとして、自賠責保険の認定対象外とした。

裁判所の判断

本件事故の接触による原告車への衝撃は軽微であったと認められるから、原告車に乗車していた原告の身体への衝撃もまた軽微なものであったと考えざるを得ない。そうすると、原告が座席を倒して仮眠中であり不意に衝撃があったことを考慮しても、原告が本件事故により医療機関での治療を要する程度に身体的な傷害を負ったものとは考え難い
 また、原告は、本件事故3日後から医療機関を受診しているものの、画像及び神経学上の異常所見などの他覚的所見があったとはうかがわれない。
 そして、原告が医療機関を受診した際には頸部の神経症状を訴えた一方、その約1週間後に通院した整骨院では頸部に加えて腰部の症状も訴えており、主訴を拡大させているところ、前記の事故態様からは頸部及び腰部の症状が生ずる機序が明らかにされていないこと、原告が医療機関への通院を約1か月で止めている一方、整骨院には5か月以上にわたり比較的高い頻度で受診していることなど、原告が本件事故で受傷したとみるには不自然な事情が指摘できる。
 なお、原告は、本件事故以前にも複数回の交通事故歴があり、数十万円の慰謝料等を受領したものもあるというのであり、交通事故により人身損害を負ったとすることで治療費等以外の経済的利得を得られることを認識していたものいえる。
 以上によれば、原告が主張する負傷が本件事故によって生じたとは認められず、原告が主張する損害と本件事故との間の相当因果関係があったと認めることはできない。

本裁判例の参考点

本裁判例では、モラルハザードの一例を示したものといえます。事故の衝撃の程度が小さい場合には、通院の必要性が争わえることがあり、裁判所が治療の必要性を否定しました。

治療費の請求額が4万2964円であることから、健康保険を用いた通院であると思われる。このようなケースでは、健康保険を用いて通院し、自賠責に被害者請求(被害者が自分もしくは弁護士を通して治療費や慰謝料を請求すること)を行うことになるが、因果関係を否定し、訴訟を提起したと思われまます。

本件事故以前にも複数回の交通事故歴があり、数十万円の慰謝料等を受領したものもあるというのであり、交通事故により人身損害を負ったとすることで治療費等以外の経済的利得を得られることを認識していたものいえる。」という裁判所の表現は、「慰謝料を獲得する目的で通院した」ということを意味しています。

ただし、実務では慰謝料の獲得は誰しもがわかっている話しであり、やはり事故の程度により正当な治療であったのかが問題となるでしょう。